活動レポート
- SDGsを整えるヒント -
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帝京大学 医療技術学部 柔道整復学科 助教
帝京豊郷台接骨院 院長 熊倉 悟
2013年、帝京大学医療技術学部柔道整復学科を卒業。柔道整復師国家資格および学士(医療技術学)の学位取得後、同大学宇都宮キャンパスに併設された帝京豊郷台接骨院にて柔道整復師として勤務。大学院医療技術学研究科柔道整復学専攻にて修士(柔道整復学)を取得。現在は、母校である柔道整復学科の助教として教育に携わるとともに、本接骨院の院長として日々患者さんと向き合っている。
柔道は、日本の古武道である柔術を起源としています。柔術には「活法」と「殺法」があります。殺法においては技を磨くために練習するわけですが、練習相手を殺めるわけにはいきません。とはいえ、本気で練習しなければ技を磨くことができません。当然怪我が増えます。そこで、怪我を治すための活法=施術法(柔道整復術)が同時に磨き上げられていきました。
現代において柔道がスポーツとして世界に広まっているのは、平和になったことで殺法が不要になり競技化したり教育の一環として世界各国で発展したりした結果です。技やトレーニング方法も多彩で、世界各地で高い人気を誇っています。一方の活法は、柔道整復師の技術として施術法が確立され、医療の一環として進化し続けています。日本では国家資格となり、スポーツトレーナー活動の一助となるような存在しても活躍の場が広がっています。もともと柔術家たちが感覚で治してきたものを理論化しているので、まずは柔道を行う際の体の使い方を理解することが重要です。投げ技にしても寝技にしても、人の筋肉・関節・骨が可能な動きをベースにしているので、その動きを分析することにより体の限界や機能を理解できます。同時に、現代のように体系化されるにあたっては、近現代の医療の発達による恩恵が大きかったと推察されます。
柔道整復師になるためには、柔道整復師養成校で教育を受け、国家試験に合格する必要があります。国家資格の難易度は年々上がっています。骨の周辺には筋肉、神経、血管、臓器など重要な体組織が集中しているので、外科や内科に必要な知識の一部を習得する必要性が高まっていることが挙げられるでしょう。大学では外科や内科の内容を包括し、レントゲンや医療行為に関する基礎知識を学びます。また講義には柔道の必修項目があります。もちろん、柔術から派生した殺法ですから柔道を学ぶ必要があるという側面もありますが、基本的に体の骨組みを理解して技をかける動きを習得することで柔道整復に関する知見を深めることが狙いです。こうした広範囲な知識を習得し、柔道整復師の資格習得が可能になります。柔道整復といえば骨接ぎ=接骨院というのが一般認識かと思いますが、骨折だけではなく脱臼や打撲、捻挫、いわゆる肉離れと呼ばれる挫傷に対して回復を図るために施術を行っています。現代の柔道整復師が持っている知識は医療全般にも軸足があるため、単に接骨という言葉だけでは柔道整復師の職能をなかなか理解しにくいと言えるのかもしれません。
もちろん、私たちは開放骨折を含め、筋肉の断裂や神経損傷といった外科手術を要する治療を扱うことはできません。例えば、見た目ではわからない怪我の中には、皮下組織で起きている外科的アプローチを必要とする傷病もあります。その場合、私たちに関する施術の流れは、まず相談に来てもらい、次に外科的な判断が必要だと思われる場合は医療機関でレントゲンを撮って医師に診断してもらいます。そのうえで、骨の整復や筋肉に対して外科的手術を必要としない保存療法で施術できるものは、私たちのところに来院いただき、医師による指導のもとで治療プランを考えることになります。外科手術などが必要な場合はそのまま医師のもとで施術プランを考え、仮に外科的アプローチが終了し、運動機能を回復する段階に移行して問題ないとなれば私たちの施術へシフトすることもあります。接骨院にはさまざまな患者さんが来院されますが、医学的な判断がないと完治に至らないケースもあります。したがって、柔道整復師である私たちの段階で医療判断が必要かどうかを判別するためには、外科や内科の内容を把握しておくことが重要なのです。
柔道整復師による施術プランは、比較的長期にわたります。骨や筋肉に関する運動機能の障害は、年齢が高いほど起こりやすくなります。老化によるものもありますが、年齢は関係なく、古傷や日常生活にちなんだ姿勢、生活習慣などに起因するものも多くみられます。そのため、症状が繰り返し起きる傾向が高く、長期間、根気強く症状と向き合うことが求められます。ちなみに、一般的に認識されてはいませんが、柔道整復師が施術できるものとして顎があります。顎も骨格ですから外れたり、痛みがあったりするときは施術可能です。ただし、いうまでもないかもしれませんが歯の治療はできません。また、小さなお子さんが床で頭を打って泣いている、といったケースでも接骨院に来ていただき打撲であれば施術することができます。医師の診断やレントゲンを撮った方が良いと判断される場合はすぐに紹介することも可能です。常にさまざまな症状を見極めながら施術プランニングを考案していきます。
重要なのは、いろいろな側面から患者さんの状態を把握することです。たとえば、接骨院に入って来るときの歩き方、歩く姿勢、座る動作などでも違和感を持つことがあります。そのうえで、痛みや疾患がある場所をヒアリング(問診)します。この段階で施術方針を決定していくわけですが、やはり重要なのは触診です。触った時の患者さんのリアクションで痛い、違和感がある、といった表現が出てくる、これが大きなヒントになり、そこからプランニングしていくことも多々あります。たくさんの症例を重ねていると、人体そのものに詳しくなるだけではなく、生活スタイルや骨格、さらには日常的なくせなど、どのように体に影響をおよぼすのか、そしてどのような施術によって整復できるのかが理解できるようになってきます。患者さん本人が大丈夫と言っていても、体や脳はその痛みや違和感を補正してしまうことがあるので、実際に正しい状態に戻した方がいいなと感じることも多々あります。私たちは、骨格そのものにフォーカスするので患部以外の場所においても自覚症状が無くても触れたときに痛みを感じる場合があります。怪我や痛みの種になりうるもの発見し、提案し、患者さんと二人三脚でより良い状態にしていくための接骨院と考えていただいた方が、急な怪我などの時にも対応しやすくなり、良いかもしれません。
SDGsという視点は、私たちにとってはあまりに大きなものですが、施術をベースにしているという意味ではQOLと向き合っており、人間の健全性は、常に世界的に重要なことだと考えています。中でも骨や人体を考えるという方法は、SDGsのゴールを考えていくプロセスに似ています。たとえば、一つの骨を治そうにも、筋肉、神経、そのほかの骨などが連携していますから、全体を考えながら部分最適をしていかなければなりません。SDGsもおそらく同じように、どこかだけを治せるものではなく、全体を見ながらそれぞれが最適な部分を改善していく必要があると考えられると思います。
”活法”は、さまざまな分野においても重要な考え方になりうるのではないでしょうか。”活き活きさせる方法”と考えれば、現代において活法を理解しやすくなるかもしれません。実際、私たちが施術していても、良くなる人はやはりその意識が強く、私たちの助言をベースに生活意識も改善される傾向が多いです。私たちの仕事は、人が持っている自然治癒力を高めることや、助言しながら良い方に導いていくことがメインです。しかし、人間の生活は変わりますし社会の利便性もどんどん変わる、施術を継続するためにも、私たちだけではなく患者さん自身の意識や理解も必要不可欠だと感じます。SDGsも同じではないでしょうか。人間の営みは日々行われておりどんどん変わる、その中で、何が人にとって良いのかを判断し、改善していくのもSDGsに求められていることだと思います。私たちは患者さんのQOLを見つめていますが、SDGsは未来を改善するための今のアクションプランの話、そう考えると、SDGsを活かすも殺すも自分次第です。社会の健全性のためのSDGsを整えていくためには、私たち自身の意識と行動こそが一番大切なのだということに尽きるでしょう。柔術における活法のように、SDGsを活き活きと改善させる”活法”を作るには、たくさんの人たちが自身や社会を理解しながら、どうしたら悪化したものを治せるのかについて知恵を出し合い、実行しながら体系化していくことが何より重要ではないかと感じます。