活動レポート
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TEIKYO SDGs report省エネは「文化」となる

- 課題解決によって育まれるスキルと文化 -

4 質の高い教育をみんなに7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに9 産業と技術革新の基盤をつくろう13 気候変動に具体的な対策を

4 質の高い教育をみんなに7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに9 産業と技術革新の基盤をつくろう13 気候変動に具体的な対策を

石野 正さんの写真 

帝京大学本部施設課 石野正(エネルギー管理士)

帝京大学本部施設課は、大学の固定資産の管理のほか、校地校舎の届出、大学の施設設備の維持管理、新築建築物および大規模改修工事に関する業務を担当している組織です。また、FM(ファシリティマネジメント)の視点から省エネおよび地球温暖化対策に関する施策を行っています。

このレポートを要約すると...

  • 2015年、帝京大学の省エネ対策はひとつの節目を迎えた。本気で取り組み、本気で成果をあげることが最重要課題になった。
  • 学長の強いリーダーシップのもと専門チームが立ち上がり「学生の教育環境と医療サービスの品質を低下させることのない省エネ達成」を前提としたアクションが始まる。
  • 東京都が推進する「トップレベル事業所認定制度」における「準トップレベル事業所」認定を目標に掲げ、精緻な自己分析に着手。
  • 定性的な取り組みを定量的な数値として可視化。次に、具体的な行動指針をステークホルダーに伝達し、協力を要請。最終的に、行動を数値で分析しながら、次の行動の指針を作りあげた。
  • 効果はすぐに現れ、省エネ目標を次々に達成。数値として可視化されているため、ステークホルダーに新たなモチベーションが生まれ、行動規範となった。エネルギーに対する新たな文化が醸成された。
  • 「既存を生かし持続可能な未来を作る」というSDGsが求める本質的な行動のノウハウが、帝京大学の省エネ活動を通して蓄積された。未来を創造する新しい可能性につながりつつある。

体制づくりが育む意識

石野 正さんの写真

私が帝京大学に移籍したのは2015年のこと。当時、帝京大学は、東京都が大規模事業所に課しているCO2排出量削減義務の達成が課題でした。そのため冲永学長を筆頭にした、帝京大学全体の省エネ推進チームが立ち上がりました。前職でエネルギー管理士として大手企業の省エネ活動に取り組んでいた私は、プロジェクトリーダーとしてまずは体制の整備に着手することになりました。

組織で新しいことに取り組む場合、最初の体制づくりが極めて重要です。板橋キャンパスの敷地には、大学の各棟と医学部附属病院だけでなく、法人本部や帝京幼稚園、看護師養成の専門学校である帝京高等看護学院などさまざまな施設が隣接しています。省エネを推進するには、こうした施設の各管理部署に加え、設備管理をお願いしている企業や施設内のテナント企業といったステークホルダーを含めた“全体”に必要な情報が共有される仕組みと協力体制を構築する必要があります。本学は、学長の強いリーダーシップのもと、すぐにFM(ファシリティマネジメント)チームと名付けた専門組織が立ち上がり、FMチームを通して各組織の責任者すべてに情報が行きわたる仕組みを備えた省エネ推進体制が構築されました。また、最初に「学生への教育環境と医療サービスの品質を低下させることのない省エネ達成」という明確な条件が付与されました。これで、省エネ(CO2削減)推進はキャンパス全体で取り組むべき課題と認識され、定期的に開かれる会議や説明会の意義が鮮明になりました。

“己を知る”ことの重要性

石野 正さんの写真

次に、現状を把握するための省エネ診断や約2万点のデータをもとにした省エネシミュレーションを実施しました。明らかになったのは、当時の省エネ施策だけでは目標とする削減義務量には届かないという現実でした。また、本学は最新設備への投資を行ったばかりで、既存設備を生かしながらの改善方法を模索することは必須。結果として重要なのは”既存の活用”による目標達成となります。そこで我々は東京都が推進する「トップレベル事業所認定制度」に着目しました。

これは、「地球温暖化の対策の推進の程度が特に優れた事業所(優良特定地球温暖化対策事業所)」として都が定める基準に適合すると認められた場合、当該対象事業所のCO2削減義務率を地球温暖化の対策の推進の程度に応じて軽減する仕組みです。必要な取り組み事項は、重要度や難易度によって3つの評価項目(必須項目・一般項目・加点項目)に分けられています。認定ガイドラインに基づき、第三者の検証と東京都による現場検証が行われたのち、各項目の評価点によって「トップレベル事業所」または「準トップレベル事業所」の認定が受けられます。取得は容易ではありません。厳しい目標が設定されており難易度も極めて高い。しかし、厳しいからといって向き合わないことは、最初から温暖化対策を諦めるのと同義です。そこで我々は認定取得を共通目標とし、具体的なアクションプランに落とし込むことで、関係する人びとの意識の全体最適を図ったのです。

良い“ものさし”に導かれて

特に重要だったのは、これまで”こうすれば良いだろう”と考えていた定性的な意識を、数字で可視化できるように定量データ化したことにありました。たとえば、関係している管理会社の方がたに日常業務の強化を依頼するとき、FMチームで明瞭な目標数字を掲げ行動案を提示し、実際に行動してもらった後の結果を数字で確認し協力体制を作り上げていきました。今では、関係各社からも極めて有益な情報と行動指針だったと評価いただいています。また、本学ではすべての教室を開放しいつでも学生が入ることができ、議論や勉学に活用できるようになっています。そこでも、空調や電気は必要なとき以外ではつけないということも徹底しました。我慢させるのではなく、わずかな無駄の削減を積み重ねたのです。

以後、毎年のCO2排出量の累計値は着実に減少していきました。成果は数字として可視化されているため関係各所にモチベーションを生み出し、新たな循環が生まれました。現在に至るまで省エネ効果は持続的に高まり続けています。つまり適切な”ものさし=数字目標”をこちらで用意することと”成果の可視化”を明示することが鍵だったのです。日本では、省エネと聞くと自由が失われる・制限されるといったネガティヴな方向に意識が縛られる傾向があります。事実、ほかの「トップレベル事業所認定制度」をめざす大学の方がたが、自分たちが提供するサービスの品質と省エネをどのように両立させるかを組織内で共有しきれず、認定取得を断念するというケースも耳にします。本学では、さまざまな活動によりCO2排出量が削減できただけでなく、全てのプロセスで新しいスキルが身につき、組織全体が成熟するきっかけとなりました。同時に「自分たちの行いが地球環境にどう影響を与えるのかという意識を育てることは、教育機関が担う役割のひとつである」という教育の根幹部分に対する意識も強化されました。いわば”エネルギーに関する新たな文化”とでもいうべきものが根付いたのです。

帝京大学 板橋キャンパス CO2排出量推移(累積)図

ケーススタディを未来創造のエネルギーに

準トップレベル事業所認定の写真

本学は、2017年3月に「準トップレベル事業所認定」の実現を達成。以後、現時点に至るまで継続して認定を受けています。我々の取り組みからSDGs達成のヒントを見つけるなら、エネルギー削減という地球規模の課題に対して有効なのは”行動規範”を定着させることの重要性です。もちろん設備投資も必要ですが、どんなにすばらしい設備でも意識次第で良くも悪くもなります。しかし、高い行動規範が定着すれば、文化となりエネルギーの効率化が永続的にブラッシュアップされる。自己の見直し、内部意識の醸成、既存ハードウェアの可能性の最大化など、さまざまなメリットもセットで達成できます。IT化も進行し、DXが叫ばれるようになった現在においては、アイデア次第で数字の可視化はますます深みを増していくでしょう。まさにこれは、既存を生かして新しい持続可能な未来を作る、という「SDGsを達成させるための行動規範」と言い換えることができるのではないでしょうか。

現在、我々がめざしたいこととして考えているのは、このような取り組みをケーススタディとして教育の場に落とし込み、未来に引き継いでいくことです。省エネ課題の解決による組織の進化のように、さまざまな活動による進化が教育によって引き継がれ社会課題を解決する人材育成につながることは、新しい未来を創造していくことそのものだと信じています。

  • ファシリティマネジメント(FM)とは、「企業・団体等が組織活動のために、施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経済活動」のことです。※2018年(平成30年)1月発行『公式ガイド ファシリティマネジメント』による定義