映画「不都合な真実」を見て

文学部史学科 本田 毅彦 先生

先日、「不都合な真実」と題する映画を見た。アメリカの元副大統領アル・ゴア氏が、地球環境問題、とりわけ温暖化の問題について論じた講演の内容を紹介している。ゴア氏はこうした講演会をアメリカだけでなく世界各地で行っており、日本も訪れた。

言うまでもなく温暖化は、人類全体がその解決のために努力すべき最重要課題の一つだと考えられているが、「不都合な真実」は、そうした「お堅い」テーマについての講演をそのままの形で紹介しては観衆が退屈する、との配慮からか、ある会場での講演風景という本筋の中に、世界各地を講演のために訪れるゴア氏の様子、そして旅先などでゴア氏が行う懐旧や思索の内容を映像化し、織り込んでいる。こうした形にすれば、ゴア氏がなぜこのような活動を行うのかについて、より深く立体的に説明することにもつながる、と製作者たちは考えたのだろう。

それでは、主人公のアル・ゴア氏とはどのような人物なのか。彼は、1990年代に二期連続して大統領となったビル・クリントン氏の下で副大統領職を務めた、民主党の政治家である。2000年の大統領選挙に民主党候補として立候補したが、共和党候補で現大統領のジョージ・W・ブッシュ氏に敗れた。しかし選挙の結果が非常な僅差であったため、裁判所にまでもちこまれてようやくブッシュ氏の勝利が確定した、といういきさつがある。当然と言うべきか、ゴア氏にはこの選挙の結果について現在もふくむところがあり、ブッシュ大統領への複雑な思いが映画の端々に現れている。また、ブッシュ政権が誕生してから9・11同時多発テロが生じ、それへのアメリカの対応(アフガン戦争、イラク戦争)が世界的に議論を呼んでいることから、ゴア氏が大統領になっていれば…、との思いを抱くアメリカ人も多いようである。

ゴア氏は「異色の副大統領」だった。アメリカの大統領選挙では、大統領候補と副大統領候補がコンビの形で戦い、また、大統領にもしものことがあれば副大統領が昇格することになっている。したがって理論的には副大統領職はきわめて重要なポストなのだが、ゴア氏以前には、大統領職の「皇帝的性格」が強まっていたため、実際には装飾的な存在だ、と考えられるようになっていた。しかしクリントン大統領は、副大統領となったゴア氏に多くの重要な政策課題を委ねた。たとえば、インターネットが地球社会の性格を大きく変えたことを否定する人はいないであろうが、その実現を促進したのが、ゴア氏の提案した「情報スーパーハイウェイ」構想だった。映画の中でも、ゴア氏が非常に熱心に、また効果的にインターネットを活用する姿が描かれている。またゴア氏は、地球環境問題について深い関心を寄せる政治家としてもつとに有名だった。

では、映画そのものの意図はどのようなものだろうか。基本的にはそれは、地球の大気は急速に温暖化しつつあるという主張について、アメリカの市民を啓蒙し、それを認めるべく説得することであるように思われる。科学的なデータが数多く、わかりやすい形で提示されており、虚心に見てゴア氏の誠意・真剣さ、そして彼の主張の正当性を受け入れないでいるのは困難なように思われる。しかし、裏づけとして提示されるデータの中には、全くの素人に過ぎない筆者にとっても、既にどこかで聞いたことがある、と思われるものも多い。そうした基本的なデータをあらためて列挙し、温暖化の事実を認めさせようとしなければならないほど、アメリカ市民の多くにとっては受け入れにくい「真実」なのであろう。

こうしたアメリカ人たちの姿勢は、一度でも同国に足を踏み入れれば即座に理解可能である。彼らの生活はどうしようもなく自動車に依存しており、ガソリンを燃やして二酸化炭素を排出し、温暖化をもたらす有力な原因の一つとされる自動車の存在なくしては、彼らは文字通り一日も生きてはいけない。温暖化は気候上の周期的変動の現れに過ぎないと唱え続けるアメリカの保守的立場の論客の存在は、日本ではあまり伝えられないが、実はアメリカ社会の多数派は、むしろ彼らの主張をいまだに支持しているようにも思われる。